昔、心の旅路という映画がありました。たしか古典的な意味での二重人格の映画だったと思います。今回は二重人格とは関係ないのですが自分にとっては忘れることのできないとても大きな出来事になった一年がありました。30年以上前の話です。やっぱりタイトルはこころの旅路ですね。

 大学の6年の時でした。それまで比較的順調でした。それなりに進級してもう少しで卒業。プライベートも順調というか素敵な彼女(ピアノ、上手でしたね)もいて、、、おそらくは有頂天になっていたのかもしれません。当時サッカー部に入っていて大学6年になっても続けることにしました。多くの医学生はクラブ活動を5年で引退するのですが同期のサッカー部の4人は続けていました。

 ゴールデンウィークの練習でボールが右目にあたりそのまま医大病院に入院になりました。眼圧が上がったということでその日はトイレで吐きまくり、、、眼圧が上がるということは頭痛と吐き気に襲われることを身をもって知りました。一週間から10日ほど入院しました。退院後は外傷性の緑内障、白内障ということで連日外来に通院してました。実は数年前にも右目にボールがぶつかり(眼底出血)数日見えなくなったことがありました。この時は徐々に見えるようになりました。ですからそのうち見えるようになると思っていたんでしょう。しかしほとんど見えないままに経過していきました。眼圧も安定せず段々と不安が強まっていき毎日眼科の外来(主治医の先生は決まった曜日にしか外来に出ません、、、大学病院の外来はそういう形になってます)でいろいろな先生方に次々と質問を繰り返していきました。
私「酒のんでもいいでしょうか?」 主治医でない先生「控えたほうがいいよ」
私「車の運転はどうでしょう?」 主治医でない先生「控えたほうが、、、」
こんな感じで自分の頭の中では”もう酒は飲めないんだ、車も運転できないんだ”とどんどん悲観的・悲愴的になっていきました。医学部の6年といえば連日の実習と国家試験の勉強でかなり忙しい日々です。本も見づらくてこんな状況で国家試験の勉強もどうやってやろうかと不安も強まっていきました。特に夕方から夜にかけて不安と焦燥というか落ち着かない感覚に襲われまともに寝れていなかった思います。日中は多少元気というか頑張らないとという気持ち(この頑張るという気持ちはさらに自分を追い込んで参らせていくときがあります)が出るのですが夕方からはもう不安で不安でどうしていいかわからない、、、そんな日々でした。体重もどんどん減っていきいつもの65kgが60kgを切っていきました。当時はタバコを吸っていましたが吸いだすと止まらなくなりました。時々声も震えだしました。
また眼科では眼圧が安定しないので手術を検討しようといわれました。
私「手術、失敗したらどうなります?」 主治医でない先生「それは見えなくなるね」
(大事なことは主治医に聞いていかなければなりません。不安のあまりいろいろな先生に聞いてしまうのですが聞かれた先生も困るでしょうし自分もどんどん混乱というか深みにはまっていくのです。)その日の帰り道にサッカー部のコーチとすれ違ったらしいのですが呼びかけても返事なくとぼとぼ歩いていたということです。

 彼女とも別れました(自分から言い出したと思います、、、これものちのちかなり応えてきました、、本当に参った、、)。彼女にもつらい思いをさせたと思います。この頃には窓から見る藻岩山がまるで厚いビニール越しに見てるようになってました(これは離人感といいます、、、統合失調症やうつ病でみられます)。一体どうなってしまったんだろう?(精神科の講義、実習はすんでいましたが自分に何が起きているのか、、、まったくというくらいわからなかった、、、)。とにかく辛くて辛くて、、、不安で不安で、、、そんな日々でした。そしてお盆です。お盆は呼び寄せるんでしょうかね。とにかく生きていることが辛くて、、、この辛さから逃れたいと思いました。誰もいない時にこの辛さから逃れたくて階段にロープをぶら下げました。もう一歩でこの辛さから抜け出せると思いました。この時が死をいちばん意識した時でした。死は僕にとって救いとなるものでした、、、この辛さから逃れられる、、、。しかしここ数ヶ月母親に笑顔がないことに気づきました。もしここで僕が死んでしまったら母親は一生笑顔になることはないんじゃないか、と思うと死ぬこともできずにロープを見つめながら階段で涙を流していました。

 数日後精神科の先輩に相談にいきました。久しぶりに合う先輩は変わり果てた私に驚きつつも話を聞いてくれました(お盆の階段のことはいえませんでした)。そしてこれは反応性のうつ病(うつ状態)になっていること、まず大学は休学するようアドバイスを受けました(このアドバイスは適切だったと思います)。そして日中に弱めの安定剤(私の場合は眼圧が上がっているので力の強い薬が使いづらかったのです)を飲むよういわれました。加えて寝る前には睡眠薬とヒルナミンという強めの安定剤(睡眠は絶対に確保する作戦です)がだされました。日中の薬はもちろん効きません。しかし夜のヒルナミンで翌日昼まで寝てしまいました。なんて強い薬なんだろう、こんな薬は飲めない、と思ってしまいました。ヒルナミンは確かに強い薬ですが飲みづづけると数日後には朝起きれるようになっていきます。もちろん先輩はそのことも説明してくれたはずですが、、、聞いていなかったんでしょうね。